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夫の遺言で財産ゼロ…!? 「愛人に全財産」は許されるのか

夫が亡くなり、悲しみに暮れる間もなく見つかったのは、「全財産を愛人に遺贈する」という遺言書でした。残された妻や子は、財産を一切相続できないのでしょうか。実は、このような遺言があっても、遺族には最低限の取り分が保証されています。「遺留分」と呼ばれるこの権利を行使すれば、遺産の一部を取り戻すことが可能です。また、「愛人に全財産を遺贈する」という内容が、公序良俗に反するので無効ではないかという論点もあります。本記事では、実際の裁判例をもとに、遺言の有効性や遺留分請求の手続きについて詳しく解説します。感情と法律が交錯する相続の現実を、分かりやすく紐解いていきます。是非最後までお読みください。
遺言は絶対なのか? 相続人が受け取る権利「遺留分」
遺留分とは? 相続人の最低限の権利
日本の民法では、相続人が最低限の財産を確保できるように「遺留分」という制度が定められています。これは、被相続人がどのような遺言を残したとしても、一定の相続人が必ず取得できる財産の割合を保証する仕組みです。
遺留分の割合と計算方法
民法第1042条によれば、遺留分は相続人の種類によって割合が異なります。配偶者や子(直系卑属)が相続人の場合、遺産の2分の1が遺留分として認められます。一方、親(直系尊属)のみが相続人となる場合には、遺産の3分の1が遺留分となります。なお、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
遺言があっても遺留分は守られる
例えば、被相続人が「全財産を愛人に遺贈する」とする遺言を残していたとしても、遺留分を持つ相続人(配偶者や子)は、その侵害された分を取り戻す権利があります。これを「遺留分侵害額請求」と呼び、遺言によって奪われた遺産の一部を金銭で請求することが可能です。
このように、遺言の内容がどれほど極端であっても、法律によって相続人の最低限の取り分は守られているのです。
「愛人に全財産」は認められるのか? 公序良俗違反の可能性
遺言の自由は憲法第29条(財産権の保障)で保障されています。人は、自らの財産をどのように分配するかを自由に決めることができます。しかし、その内容が社会的倫理に反すると判断された場合、遺言は無効とされることがあります。特に、不倫関係を維持・継続する目的でなされた遺言は、公序良俗に反するとして無効となる可能性があります。
例えば、愛人との関係を続けるために多額の財産を遺贈することを約束し、その結果として遺言が作成された場合、裁判所はこれを公序良俗違反と判断することがあります。実際に、過去の判例でも「妾関係を維持するために遺贈した」と認定された遺言が無効とされた例があります。遺言の自由は重要ですが、それが社会の倫理や道徳に反するものであれば、法的に認められない場合もあるのです。
遺言が公序良俗に反すると判断された裁判例
遺言は本来自由に作成できるものですが、その内容が公序良俗に反すると判断された場合、無効となることがあります。特に、不倫関係の維持や継続を目的として作成された遺言は、社会的倫理に反するものとして裁判所によって無効と判断される可能性が高いです。
公序良俗違反とされた裁判例
実際の裁判例を見てみると、以下のような事例では遺言が無効と判断されています。
福岡地裁小倉支部 昭和56年4月23日判決
被相続人が愛人に遺産の30%を遺贈するという遺言を残していました。しかし、裁判所はこの遺言が単なる財産分与ではなく、不倫関係を維持することを目的としたものであり、公序良俗に反するとして無効と判断しました。
東京地裁 昭和58年7月20日判決
夫が「全財産を愛人に遺贈する」との遺言を残していましたが、裁判所はこれを「道徳に反し、社会的に許容できるものではない」と判断し、無効としました。
公序良俗に反する遺言の行方
このように、遺言が不倫関係の継続を目的としたものであれば、裁判所は公序良俗違反を理由に無効と判断する可能性が高いです。遺言は自由に作成できるものの、その内容が社会通念に照らして著しく不合理である場合、法律による制限を受けることになるのです。
公序良俗に反しないケースとは?(最高裁昭和61年11月20日判決)
遺言が必ずしも無効になるとは限らない
遺言の内容が愛人への遺贈を含む場合でも、必ずしも無効となるわけではありません。裁判所は、遺言の目的や相続人の生活への影響などを総合的に考慮し、その有効性を判断します。
最高裁昭和61年11月20日判決の判断基準
最高裁昭和61年11月20日判決では、「遺贈の目的が不倫関係の維持ではなく、愛人の生活基盤の確保である場合には有効」と判断されています。つまり、遺言が単なる報酬的な性質を持つものではなく、受遺者の生計維持のために必要なものである場合、公序良俗に反しないと認められるのです。
相続人の生活への影響が重要なポイント
また、愛人への遺贈が相続人の生活を脅かすものでない限り、遺言の有効性は認められます。例えば、被相続人が生前に配偶者や子に十分な財産を確保していた場合、愛人への遺贈があっても社会的に許容されると判断されることがあります。結局のところ、公序良俗違反かどうかは、遺言の内容や目的、相続人の状況によって変わるのです。
まとめ:相続人はどう対応すべきか?
「愛人に全財産を遺贈する」という遺言があった場合、相続人はまず遺留分侵害額請求を行い、自身が取り戻せる財産があるかを確認する必要があります。遺留分の範囲内であれば、遺言の内容に関係なく一定の財産を請求できます。また、遺言が公序良俗に反する可能性がある場合は、無効を主張することも選択肢の一つです。裁判例を参考に、遺贈の目的や相続人の生活への影響を考慮しながら判断することが重要です。最終的には、弁護士と相談し、適切な対応を取ることが望ましいでしょう。 行政書士井戸規光生事務所では、相続診断士の資格を有する行政書士が、ご依頼者様一人ひとりの状況に合わせて、遺言書作成のサポートや相続手続きを代行いたしております。「遺産を愛人に相続させる」という内容の遺言書が出てきてしまい、トラブルが起こった際には弁護士と連携し、手続きを進める体制を整えております。初回相談は無料でございます。ぜひお気軽に、お電話(052-602-9061)、FAX(050-1545-5775)、お問い合わせフォーム、もしくはEメール ido.kimioアットマークofficeido からご相談ください。ご連絡お待ちしております。