「天国への旅立ちの順番は誰にもわからない」―遺言書は夫婦で 

「夫が先に逝くものだと思っていました」——そんな前提で準備をしていたはずが、ある日突然、妻が先に亡くなってしまう。相続の現場では、そんな想定外の出来事が少なくありません。夫が年上で、平均寿命も男性のほうが短い。だからといって、命の順番は誰にも決められないのです。遺言書を夫だけが用意しても、万一に備えるには不十分。お互いの想いを残し合うことが、家族を守り、遺された人の悔いを減らすための大切な準備です。

目次

命の順番は予測できないという現実

多くの夫婦が、「夫が年上で、男性のほうが平均寿命が短いから」という理由で、夫が先に亡くなるものと考えがちです。しかし、現実には妻が先に亡くなるケースも決して珍しくありません。突然の病気や事故によって、想定外の別れが訪れることもあるのです。そうしたとき、妻側の遺言書が用意されていなければ、財産の行き先に困ったり、思わぬ相続人が現れたりすることもあります。遺された家族が混乱し、トラブルに発展することもあるのです。「まだ大丈夫」と思っていても、命の順番は誰にもわかりません。だからこそ、どちらが先でも困らないように、夫婦それぞれが準備をしておくことが大切なのです。

連名で遺言書は作れない―だからこそ、二人分が必要

遺言書は“個人”の意思を示すもの

遺言書とは、自分の財産を誰に、どのように渡すのかを明確に示す、法的な文書です。その性質上、一人ひとりが自分の意思を表す必要があります。夫婦で一緒に話し合って決めることは大切ですが、遺言書そのものは“個人”が書かなければなりません。

夫婦連名の遺言書は無効

仲の良いご夫婦で、「一枚の紙に連名で遺言書を書けばいいのでは?」と思われる方もいますが、日本の法律ではそのような遺言書は無効とされています。たとえ夫婦で同じ内容を書いたとしても、別々の書面で作成し、それぞれが署名・押印をする必要があります。

夫婦交差型(たすきがけ)遺言と、予備的遺言の活用

夫婦で支え合う「交差型(たすきがけ)遺言」

夫婦それぞれが、自分の財産を相手に譲る内容を遺言に記しておく方法を、「交差型(たすきがけ)遺言」と呼びます。たとえば、夫の遺言書には「全財産を妻に相続させる」と書き、妻の遺言書には「全財産を夫に相続させる」と記載することで、お互いを第一の受取人として明確に意思を示すことができます。これは、愛情と信頼をかたちにする、シンプルかつ実用的な遺言スタイルです。遺された側が安心して財産を引き継げるという意味でも、有効な手段です。

万一に備える「予備的遺言条項」の安心感

交差型遺言をさらに安心なものにするのが、「予備的遺言条項」の活用です。これは、もし配偶者が先に亡くなっていた場合に、次に誰に財産を渡すかをあらかじめ定めておく条項です。「第一受取人=配偶者、もしすでに死亡していれば、第二受取人=子ども」といった形で書いておくことで、想定外の順番にも柔軟に対応できます。財産の流れがはっきりし、相続トラブルを未然に防ぐという点でも非常に有効です。

妻が先に亡くなった場合に想定されるリスク

再婚・連れ子がいる場合に起こりやすい相続トラブル

夫が再婚で、前妻との間に子がいる場合、妻の死後に思わぬ相続問題が発生することがあります。法定相続の仕組みにより、妻の財産が夫を経由し、結果として前妻の子に相続される可能性があるのです。

妻の財産が夫を経由して思わぬ相続先へ

妻が遺言を残さずに亡くなった場合、その財産は原則として夫に渡ります。夫がその後亡くなると、その財産は夫の子どもたち、つまり前妻の子も含めた相続人に分けられます。これは、妻の想いとは異なる結果を招くかもしれません。

「残された家族を守るはずが…」という後悔を防ぐには

配偶者の死後の相続を見越して、事前に遺言で意思を示しておくことが、家族を守る最大の手段です。遺言書があれば、財産の行き先を明確にでき、不要な誤解や争いを防ぐことができます。


夫婦で遺言書を準備するという発想

片方だけの準備では不十分

遺言書は、多くの場合「夫だけが書けばいい」と考えられがちです。しかし、命の順番は誰にも分からない以上、どちらか一方だけの準備では不十分です。夫が遺言を残していても、先に妻が亡くなれば、その内容は役に立たないこともあります。

「自分の死後」ではなく「相手の死後」も想定

遺言書の準備というと、自分の死後のことを考えるイメージが強いですが、「相手が先に亡くなった場合」も想定することが重要です。配偶者が先になくなり、遺産を相続すると、自分の遺産の総額も資産構成も変化するからです。夫婦それぞれが、自分の財産と向き合い、どのように引き継いでもらいたいかを明確にしておく必要があります。

元気なうちに一緒に考える意義

遺言は、病気になってから、あるいは高齢になってからではなく、元気なうちにこそ準備するものです。夫婦で互いの想いを共有しながら遺言を作ることは、安心を共有し、残された家族の負担を軽くすることにもつながります。

まとめ:未来はわからないから、今できることを

命の順番は、自分で選ぶことも、予測することもできません。だからこそ、大切なのは「もしも」のときに備えておくことです。遺言書は、自分の死後に家族が困らないようにするための、優しさのかたちです。夫婦のどちらが先に亡くなっても、残された人が迷わず、安心して日々を過ごせるように。今のうちから、夫婦それぞれが遺言書を準備しておくことが、家族への想いを確実に伝える方法になります。行政書士井戸 規光生事務所では、ご夫婦それぞれの状況に合わせた遺言書作成のご相談を承っております。「何から始めればよいか分からない」「うちの場合、どう考えるべき?」といったご不安にも、丁寧にお応えいたします。初回相談は無料ですので、お電話052-602-9061またはEメールido.kimioアットマークofficeido.com、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。安心して遺言を書く一歩を、ここから始めてみませんか。

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この記事を書いた人

2024年に「行政書士 井戸 規光生 事務所」を設立しました。
建設業、遺言・相続サポート業務に特化した名古屋市南部の地域密着型事務所です。
高校時代はラグビー部に所属。地元名古屋のスポーツチームを応援しています。

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