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「誰に、何を、どう遺す?」――遺言に悩む10の理由とそのヒント

「遺言を書こう」と思ったとき、最初に立ちはだかるのは、「誰に、何を、どう渡すか」という問いかけです。感情と現実のあいだで揺れる中、決めきれないまま時間だけが過ぎていく――そんな方も多いのではないでしょうか。誰かを傷つけたくない。でも、正直な気持ちもある。財産の整理、法的な制限、家族の事情。考えるほどに複雑になるこの問題に、ひとつひとつ向き合うヒントを、本記事では10の視点からご紹介します。
分け方が決められない
「平等=公平」とは限らない
兄弟姉妹にまったく同じ金額や割合で財産を分ければ、それで「公平」なのか――これは遺言を考える際、多くの方が悩むポイントです。数字の上では平等に見えても、家族の歴史や関係性の中には、それぞれ異なる背景や思いがあるものです。 たとえば、長男は地元に残り、親の介護や家業の手伝いを担ってきた。一方で、他の兄弟姉妹は遠方に住み、特別な負担もなく生活していた。そうした状況で「等しく分ける」となったとき、介護を担ってきた側からすれば、「自分の苦労が報われない」と感じるかもしれません。 逆に、「感謝の気持ちとして多めに渡したい」と考える親も少なくありません。しかし、その結果、他の相続人が不満を抱けば、それが遺産分割のトラブルの火種になることもあります。 つまり、遺言において大切なのは、「平等に分けること」よりも「どうすれば、できる限り納得してもらえるか」という視点です。金額では表せない事情――介護、援助、家業の継承などを、どう考慮し、どう説明するか。それを丁寧に言葉にすることで、のちの誤解や対立を防ぐことができます。
不動産と現金の扱いに注意
不動産は分けにくく、現金はそのまま分けやすい。この違いも、相続後のトラブルのもとになります。「誰が住むか」「どう評価するか」――その判断ができていないと、遺産分割は難航しがちです。
相続人以外に渡したい
内縁のパートナーやお世話になった人へ
法定相続人でない人には、原則として何もしなければ財産は渡りません。たとえば長年連れ添った内縁の配偶者、献身的に介護してくれた知人や親戚――感謝の気持ちを伝えたい相手がいても、そのままでは相続できないのが現実です。遺言書で「遺贈」として指定することで、初めてその意思が法的に有効になります。
遺留分との調整を忘れずに
一方で、相続人以外への遺贈が多すぎると、配偶者や子どもなどの「遺留分」を侵害するおそれがあります。遺留分とは、最低限保障された取り分のこと。これを侵害すると、後に「遺留分侵害額請求」が発生し、せっかくの思いが争いに変わることも。感謝の気持ちを形にする際には、法的なバランスにも配慮が必要です。
家族関係が複雑
再婚・前婚の子どもへの配慮
再婚によって家族構成が変わると、前婚の子どもと現配偶者・その連れ子との関係性に、微妙な温度差が生まれやすくなります。たとえ一緒に暮らしていなくても、前婚の子どもには法定相続分があります。その存在を無視した遺言は、のちにトラブルの原因となることも。誰に、どのように財産を渡すか――丁寧な言葉で意思を示すことが大切です。
疎遠な家族との“距離”とどう向き合うか
長年連絡を取っていない家族にも、法律上の相続権がある場合があります。「関わりたくない」「財産は渡したくない」と思っていても、そのままでは意図しない相続が起きる可能性も。疎遠であることを前提にした上で、配分やその理由を記すことが、後の争いを防ぐ鍵となります。
トラブルの火種になるかも
「理由」を書くことで、誤解を防ぐ
遺言に具体的な理由を書くことには、躊躇があるかもしれません。しかし、「なぜこのような分け方にしたのか」を一言添えることで、残された家族の誤解や不満を和らげることがあります。たとえば、「介護のお礼として多く渡す」といった明確な意図を記すことで、納得の助けになる場合もあるのです。
感情のもつれは「遺言執行者」が解きほぐす
相続は、財産の問題であると同時に、感情の問題でもあります。感情的な対立が起きやすい場面だからこそ、遺言執行者を指定しておくことが重要です。中立的な第三者が手続きを進めることで、相続人同士の直接対立を避け、スムーズな執行につなげることができます。
認知症になったら?
遺言書は、本人に「意思能力」がある状態で作成されなければ、法的に無効とされる可能性があります。意思能力とは、自分の行為の意味や結果を理解し判断できる力のこと。認知症が進行してからでは、その能力が失われるおそれがあります。「そのうちに」と考えていても、状況は思いのほか早く変わるもの。心身がしっかりしている今だからこそ、意思を明確にし、法的に有効な形で遺すことが大切です。
生前贈与や借金との整理
「あの子にはもう渡した」は通用しない?
生前に現金や不動産を一部の子に贈与していた場合、それを他の相続人の相続分と調整するには、「特別受益」として扱う必要があります。民法では、相続人が被相続人から特別な利益を受けた場合、その分を相続分に持ち戻して(持戻し)、全体の公平を図ると定められています。しかし、その贈与が特別受益にあたるかどうかは、明確な証拠や本人の意思表示がなければ判断が分かれます。遺言書で「持戻し」または、「持戻し免除」の意思を示していなければ、他の相続人との間で不公平感が生じ、遺産分割協議が難航する恐れがあります。したがって、生前贈与を行った場合は、その意図や取り扱いについて、遺言などで法的に整えておくことが不可欠です。
借金も「財産」の一部
相続されるのは財産だけではなく、借金などの「債務」も含まれます。マイナスの財産が多い場合、相続放棄や限定承認といった手続きを検討する必要があります。遺言を書く際には、財産だけでなく、借入れや保証なども含めて整理し、できるだけ正確な情報を遺しておくことが大切です。
遺留分の侵害は?
遺留分があるのは誰?割合は?
遺留分とは、一定の法定相続人に認められた「最低限の取り分」です。亡くなった人の配偶者、子、直系尊属(直系尊属は相続人となった場合のみ)に認められた権利です。たとえば子どもが複数いる場合、各子には法定相続分の1/2が遺留分として保障されます。(夫が亡くなり、母1人、子ども2人が遺された場合。子どもの法定相続分は1/4、遺留分は1/8)この権利を無視した遺言は、たとえ形式が整っていても後に争いの原因になります。
たとえば前述のケースの場合で、「母に5/10、長兄に4/10、次男に1/10」というような分け方を指定してしまうと、次男には遺留分侵害額請求権が発生し、争いになる可能性があります。
遺留分侵害を防ぐ工夫
相続人以外への遺贈や、特定の相続人への偏った配分を考える場合は、遺留分の侵害に注意が必要です。後々「遺留分侵害額請求」をされないよう、事前に専門家の助言を受け、遺言の内容を調整することが大切です。
無効になるリスク
自筆証書遺言は形式が命
自筆証書遺言は手軽に作れる一方で、日付・署名・押印の漏れや加筆訂正の不備など、形式の誤りによって無効となるケースが少なくありません。せっかくの意思表示も、形式を満たさなければ法的効力は認められません。一般の方が書かれた自筆証書遺言を専門家がチェックしてすぐにOKを出せるケースはほとんどありません。
無効を避けるための方法
こうしたリスクを避ける手段として、公正証書遺言を選ぶ方が増えています。公証人が内容と形式を確認して作成するため、法的なミスを防ぐことができ、安心して意思を遺せる方法として有効です。
財産の変動への対処
遺言を書いた当時はあった財産が、亡くなる時点では売却されていたり、評価額が大きく変わっていたりすることは少なくありません。具体的な財産を名指ししていると、遺言の内容と現実との間にズレが生じ、相続人の間で混乱を招くおそれがあります。こうした事態に備える方法として、遺産全体を「◯対◯」といった割合で分ける方法があります。財産の変動に影響されにくく、現実的な分配がしやすくなるため、トラブルを避けたい方には有効な手段です。
手続きが本当にスムーズか?
遺言執行者を指定する意味とは
遺言書があっても、実際の相続手続きが円滑に進むとは限りません。そこで重要なのが「遺言執行者」の指定です。遺言執行者は、遺言の内容を実現する役割を担う重要な存在です。相続人の1人を指定することも可能ですが、相続人間で利害がぶつかりそうな場合や、財産が複雑な場合には、中立的な第三者(専門家)を指定することで、手続きを円滑に進めやすくなります。
“もめない準備”の第一歩
相続手続きがスムーズに進まない背景には、「誰が何をどう進めるか」が不明確であることが多くあります。遺言書に執行者を定め、必要な情報や資料を整理しておくことで、家族が冷静に動ける環境が整います。遺す側の「準備」が、家族を守る行動につながるのです。
まとめ
遺言を書くという行為は、単に財産を分ける手続きではなく、家族への想いと向き合う作業でもあります。悩むということは、それだけ相手や状況を真剣に考えている証拠です。感情と現実が交錯するからこそ、言葉にして残す価値があります。迷いや不安があるなら、なおさら早いうちに形にしておくことが大切です。完璧でなくても構いません。まずは、自分の意思を“見える化”すること。それが、家族にとっても、そして自分自身にとっても、心強い支えとなるはずです。行政書士井戸規光生事務所では、相続診断士の資格も持つ行政書士が、こうした遺言作成にまつわるお悩み一つひとつに丁寧に向き合い、ご本人の想いを大切にした書面作りをお手伝いしております。相続人間の関係性や財産の内容に応じて、無理のない形で進めることが何より重要です。「まだ迷っている」「何から始めればいいかわからない」という段階でも大丈夫です。初回相談は無料ですので、お電話052-602-9061またはEメールido.kimioアットマークofficeido.com、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。安心して遺言を書く一歩を、ここから始めてみませんか。