内縁の配偶者に相続権なし!? よくあるトラブルと対策

被相続人に内縁の配偶者がいる場合、相続が大きなトラブルに発展することがあります。法律上、内縁関係にある人には法定相続権が認められていません。そのため、長年寄り添った内縁の配偶者が家を追い出されたり、生活の基盤を失ったりするケースが少なくありません。本記事では、内縁の配偶者が抱える具体的なトラブル事例と、そのトラブルを防ぐための対策について詳しく解説します。遺言書の作成や生前贈与など、内縁の配偶者を守る方法を知り、大切な人の安心を確保しましょう。

目次

よくある相続トラブルの事例

居住している家からの退去要求

被相続人と内縁の配偶者が一緒に暮らしていた家が被相続人名義の場合、相続において内縁の配偶者が退去を求められるケースは珍しくありません。法律上、内縁の配偶者には法定相続権がないため、被相続人の財産は原則として法定相続人である子どもや親、兄弟姉妹などに分配されます。この場合、被相続人名義の家は法定相続人が相続することとなり、内縁の配偶者がその家に住み続けたいと望んでも、法定相続人が所有権を主張すれば、その権利が優先されます。

特に問題になるのは、内縁の配偶者がその家で長期間暮らし、生活基盤を築いていた場合です。内縁の配偶者にとってはその家が「我が家」としての役割を果たしていたとしても、法定相続人から見ると、相続した家を売却したり自分たちが利用したりしたいと考えることもあります。このような状況では、感情的な対立が激化し、内縁の配偶者が強制的に退去を求められる可能性も否めません。

内縁の配偶者の生活困窮

内縁の配偶者には法定相続権が認められていないので、預貯金や不動産などの遺産は法定相続人である子どもや親、兄弟姉妹が相続することになります。この結果、内縁の配偶者が被相続人と長年共同生活を送っていた場合でも、生活資金や財産を一切相続できないことが少なくありません。特に、被相続人が家計を支える主な生計維持者であった場合、内縁の配偶者は突然その収入源を失い、生活が一変してしまうリスクがあります。

例えば、被相続人が内縁の配偶者の生活費や家賃を負担していた場合、その支援が途絶えることで日常生活に必要な費用を賄えなくなる可能性があります。また、被相続人と内縁の配偶者が共有していた預貯金も、被相続人名義であればその大半が法定相続人の手に渡るため、内縁の配偶者の手元には一切残らないことがあります。

このように、被相続人が亡くなると内縁の配偶者の生活は急激に不安定になる恐れがあり、生活基盤が崩れることは少なくありません。

特別縁故者としての申立て負担

内縁の配偶者が被相続人の遺産の分与を受けるために「特別縁故者」として家庭裁判所に申立てを行わなければならない場合があります。特別縁故者とは、被相続人と特別な関係にあった人物を指し、家庭裁判所が認めることで遺産の分与を受けることができる制度です。しかし、この手続きは、法定相続人がいない場合にしか行えませんし、法律に詳しくない人にとって非常に複雑で、専門家の助けを必要とすることが多いのが実情です。また、申立てには相当な時間と費用がかかり、結果が出るまで長期間待たなければならないことも少なくありません。

さらに、この制度を利用するためには、被相続人との特別な関係性を詳細に証明する必要があります。内縁の配偶者であることを示すための資料や証拠を収集し、裁判所に提出する作業は非常に負担が大きいものです。また、特別縁故者の申立てが認められるかどうかは家庭裁判所の判断次第であり、内縁の配偶者であっても必ずしも認められるわけではありません。このため、手続きに多大な労力を費やしても結果が伴わない可能性があるというリスクを伴います。 例えば、同居期間が短かったり、被相続人との生活実態を十分に立証できなかったりする場合、裁判所が特別縁故者として認定しないことがあります。この場合、内縁の配偶者は遺産の分与を一切受けられない結果となり、長い裁判手続きが徒労に終わる可能性もあるのです。精神的な負担が大きいだけでなく、申立てにかかる弁護士費用や時間的コストも内縁の配偶者にとっては大きな負担となります。


トラブルを防ぐためにできる対策

遺言書の作成

遺言書を作成することは、内縁の配偶者を守る最も効果的な手段の一つです。遺言書があれば、被相続人が内縁の配偶者に特定の財産を遺贈する意思を明確に示すことができます。これにより、遺産分割協議の際に法定相続人から内縁の配偶者への分配が争われる可能性を大幅に減らすことができます。

特に、公正証書遺言として作成することで、遺言の有効性が裁判所で簡単に確認されるため、遺言の有効性を巡るトラブルが生じにくくなります。公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため、偽造や無効とされるリスクが極めて低く、安心です。また、遺言執行者を指定しておけば、遺産分割の手続きをスムーズに進めることができます。

被相続人が特定の財産を内縁の配偶者に確実に渡したい場合や、住み続けてほしい家を指定したい場合などは、遺言書でその旨を明記しておくことが不可欠です。

内縁の配偶者に財産を引き継がせるためには、「相続させる」ではなく「遺贈する」の文言を使いましょう。また、法定相続人がいる場合には遺留分にも注意して、そして、内縁の配偶者に財産を渡したい理由を付言事項で書いておくとよいでしょう。


生前贈与や共有名義の設定

内縁の配偶者の生活を守るためには、生前贈与や財産の共有名義化も有効な方法です。生前贈与では、被相続人が内縁の配偶者に現金や不動産を生前に贈与することで、財産が相続手続きの対象外となります。これにより、法定相続人とのトラブルを回避することができます。

特に、内縁の配偶者が住む家については、被相続人の単独名義ではなく、共有名義にしておくことが効果的です。共有名義であれば、内縁の配偶者が少なくともその持分の権利を持つことになるため、住み続ける権利を一定程度守ることが可能になります。また、不動産以外の財産についても同様に共有名義化を進めることで、万一の場合に内縁の配偶者が一定の保有権を主張できます。

ただし、生前贈与には贈与税が課される可能性があるため、贈与額や方法については税務の観点から慎重に計画する必要があります。贈与税の非課税枠を活用したり、贈与契約書をきちんと作成したりしておくことで、贈与が確実に成立し、相続時のトラブルを減らせるでしょう。税務に関しては、税理士に相談することが肝要です。

また、生前贈与は被相続人が健康なうちに行うことが重要です。急な病気や認知症の進行などにより判断能力が低下してからでは、贈与行為が無効とされるリスクもあるため、早めの準備が必要です。


婚姻届の提出

内縁の配偶者が法定相続人として相続権を得るための最も確実な方法は、婚姻届を提出して法律上の夫婦関係を築くことです。婚姻届を提出すれば、内縁の配偶者は配偶者として法定相続人に位置付けられるため、遺言書がなくても相続を受ける権利を持つことになります。これにより、遺産分割協議においても他の相続人と対等の立場で話し合いに参加することができ、生活基盤が守られる可能性が大きく向上します。

特に、内縁関係が長期間続いている場合や、財産の多くが被相続人名義となっている場合は、婚姻届を出すことで法的な保護を受けられる点で大きなメリットがあります。また、婚姻届を出すことにより、相続税の負担も軽減されます。配偶者が相続する財産には一定の非課税枠が適用されるため、内縁のままでいる場合に比べ、税金面でも有利です。

ただし、婚姻届を提出する際には、双方の家族や親族間での理解を得ることが重要です。特に、過去に婚姻歴があり、前配偶者との間に子どもがいる場合などは、相続関係が複雑化することも考えられるため、事前に専門家に相談しながら手続きを進めることが望ましいでしょう。婚姻届を出すタイミングが遅れると、健康問題や急な死亡事故により提出が間に合わないリスクもあるため、早めに検討を開始することが重要です。

以上のように、内縁の配偶者がトラブルに巻き込まれないためには、早期の対策が鍵となります。それぞれの方法には利点と注意点があるため、内縁の配偶者の状況や被相続人の意向を十分に考慮した上で最適な手段を選ぶことが大切です。遺言書の作成や生前贈与、婚姻届の提出といった手法を活用し、安心できる生活基盤を確保するために専門家の助言を受けながら計画を進めていきましょう。

まとめ:内縁の配偶者が安心して生活を送るために

内縁関係の配偶者が被相続人の死後も生活基盤を失わないためには、生前の準備が不可欠です。遺言書の作成や生前贈与といった方法を活用し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。また、内縁の配偶者自身も自らの立場を理解し、専門家の助言を受けながら適切な対応を進めることが大切です。 行政書士井戸規光生事務所では、相続診断士の資格を有する行政書士が、ご依頼者様一人ひとりの状況に合わせて、遺言書作成のサポートや相続手続きを代行いたしております。 また、相続準備を望まれる方にも、適切な方法をアドヴァイスいたします。登記が必要な際には提携する司法書士、相続税のご相談には税理士、相続人間でのトラブルが起こった際には弁護士と連携し、手続きを進める体制を整えております。初回相談は無料ですので、ぜひお気軽にお電話やお問い合わせフォームからご相談ください。

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この記事を書いた人

2024年に「行政書士 井戸 規光生 事務所」を設立しました。
建設業、遺言・相続サポート業務に特化した名古屋市南部の地域密着型事務所です。
高校時代はラグビー部に所属。地元名古屋のスポーツチームを応援しています。

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