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疎遠な兄弟姉妹が相続人⁉「ハンコ代」で手続きを進める現実的な対策

被相続人が亡くなったとき、相続人に疎遠な兄弟姉妹が含まれている場合、相続手続きが思うように進まないことがあります。特に、遺産分割協議書に実印をもらう必要がある場面では、その連絡ひとつにも心理的なハードルを感じる方が少なくありません。遺産分割協議書には法定相続人全員の署名、実印での押印と印鑑証明書が必要です。そのため、疎遠になった経緯はさまざまでも、法定相続人である限り、その協力は避けて通れないのが現実です。
こうしたときに「ハンコ代」という実務的な選択肢が浮上します。あえて金銭を渡してでも円滑に手続きを進める——それは、法律論では割り切れない、相続人同士の“感情の調整費”ともいえるでしょう。本記事では、疎遠な兄弟姉妹が相続人となった場合に起こり得る問題と、「ハンコ代」を使って現実的に対処する方法について、行政書士の視点から解説します。
なぜ疎遠な兄弟姉妹が相続手続きの障害になるのか
相続人は民法によって法定されており、兄弟姉妹が相続人になるケースも多く見られます。たとえ被相続人との関係が希薄だったとしても、法定相続人としての権利は変わりません。他の相続人や、亡くなった被相続人との関係が希薄だったとしても、法定相続人は誰一人として、無視することはできないのです。しかし、長年交流のなかった兄弟姉妹に突然連絡を取ることは精神的にも難しく、協議に応じてもらえないケースもあります。実印の押印が得られなければ、不動産の登記手続きや預貯金の解約ができず、相続手続き全体が停止してしまいます。
ハンコ代とは?法的な位置づけと実務での実態
ハンコ代とは、相続人に実印を押してもらう代わりに支払われる金銭のことで、法律上の定義はありません。俗称ではありますが、実務ではよく用いられており、遺産分割協議書への押印が難航する場合に円滑化の手段として用いられます。相場は一般に10万~30万円程度とされますが、相手の性格や関係性、遺産の総額によって数十万から100万円以上になることもあります。なお、110万円を超えると贈与税の課税対象となるおそれがあるため注意が必要です。
【実例紹介】疎遠な兄弟との相続、ハンコ代で解決したケース
あるご相談者様(Aさん)は、被相続人である母の死後、相続人として兄弟Bさんとの間で遺産分割協議を進める必要がありました。ところが、Bさんは遠方に住んでおり、ここ10年以上まったく連絡を取っていない状態。生前、母の介護や財産管理を一手に引き受けていたAさんとしては、「できる限り自分が多くの遺産を引き継ぎたい」という希望を持っていました。 Aさんは、母名義の不動産や預貯金を中心に相続する内容で遺産分割協議書を作成し、それに対するBさんの同意(実印の押印)を得る必要がありました。しかし、Bさんにとっては「自分にほとんど相続がない」内容であり、同意を得るには一定の交渉が必要でした。そこでAさんは、「御礼の気持ちとして、協議にご協力いただけるなら一定の金銭をお支払いしたい」と書面で丁寧に伝え、Bさんからも「条件次第で応じる」との返答がありました。最終的にAさんは、遺産総額の一部に相当する20万円を「感謝の意を込めて」Bさんに支払うことを提案し、双方が納得のうえで協議書への捺印がなされました。
この金銭は、あくまで「代償分割の一部」として遺産分割協議書にも明記し、贈与税のリスクも避ける形で処理しました。おかげで、法務局での登記申請や銀行での相続手続きもスムーズに進み、相続人双方にとって穏やかな解決となりました。
疎遠な兄弟にどう切り出す?連絡・交渉のコツ
疎遠な相続人にいきなり電話や訪問で連絡するのは避け、まずは丁寧な文書で通知するのが望ましいでしょう。その際、自己紹介とともに被相続人との関係、相続財産の概要、法定相続分の説明、遺産分割の方針などを簡潔に記載します。初回の連絡でハンコ代を提示すると、かえって相手の感情を逆なですることがあります。「御礼としての気持ち」など、表現に配慮しながら、協議の流れの中で交渉材料として提示するのが現実的です。
ハンコ代を支払うときの注意点と税務リスク
ハンコ代を支払う場合は、金額が110万円を超えると贈与税の課税対象になる可能性があります。これを避けるためには、「代償分割」として処理する方法があります。代償分割とは、一人の相続人が財産を取得する代わりに、他の相続人に金銭(代償金)を支払う方式です。金額やお金の流れは同じでも、ハンコ代なのか、代償分割による代償金なのかによって、違ってきます。遺産分割協議書に代償金の記載を明記すれば、贈与ではなく相続税の対象とみなされ、税務上のリスクを回避できます。また、口約束ではなく支払いの経緯を記録に残すことも重要です。
相続放棄を依頼する場合のハンコ代とは
相続放棄は、相続人がすべての権利と義務を放棄する手続きであり、家庭裁判所への申述が必要です。この放棄をお願いする際にも、ハンコ代のような「協力金」を提案することがあります。ただし、相続放棄をした人は相続財産を受け取れないため、協力金の出所は依頼者側の私財とするのが原則です。また、金額が大きい場合は代償分割とする方が税務上有利であり、放棄の対価であることを明確にする書面を残しておくことが勧められます。
まとめ:相続人同士の感情を整える“調整費”としてのハンコ代
ハンコ代はあくまで法律上の制度ではなく、相続人同士の感情を調整するための実務的な措置です。疎遠な関係であっても、冷静かつ丁寧に対応し、必要に応じてハンコ代という選択肢を活用することで、スムーズな相続手続きにつながることがあります。感情と手続きの両立は難しいものですが、トラブルを最小限に抑え、円満な解決を目指すためにも、専門家のサポートを活用しながら慎重に進めることが大切です。
行政書士井戸 規光生事務所では、こうした感情面の調整が必要となる相続実務に精通しており、遺産分割協議書の作成はもちろん、疎遠な相続人との連絡方法やハンコ代の提案の仕方など、実際の対応方法についてもきめ細かくアドバイスいたします。必要に応じて、税理士や司法書士と連携し、贈与税・相続税のリスクを回避した円満な解決を図る体制も整えています。相続は「手続き」だけでなく「人との向き合い方」が問われる場面でもあります。だからこそ、法律と実務の両方に通じた専門家の関与が、トラブル回避と早期解決のカギになります。疎遠な兄弟姉妹との相続に不安を感じている方は、どうぞお気軽にご相談ください。初回相談は30分無料で承っております。お電話052-602-9061またはEメールido.kimioアットマークofficeido.com、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。あなたの状況に合わせて、最も現実的かつ納得のいく方法をご提案いたします。