相続の盲点!引き継げない権利と義務を徹底解説

相続とは、ある個人が亡くなった際、その人(被相続人)の財産や義務が、法定相続人に承継される法律上の制度を指します。多くの人が財産や負債の引き継ぎをイメージしますが、実は相続できない権利や義務が存在することをご存じでしょうか?相続には、「一切の権利義務」が引き継がれるとされていますが、被相続人の個人的な性質に強く結びついたものは相続の対象外です。例えば、年金や委任契約など、一見重要そうな権利や義務でも相続人に移らないケースがあります。このブログでは、相続の際に注意すべき「引き継げない権利・義務」について詳しく解説します。相続手続きをスムーズに進めるために、ぜひ参考にしてください。

目次

引き継げない権利

引き継げない権利とは、被相続人の個人的な事情に深く関わるものであり、相続の対象外となるものを指します。これには、主に被相続人の人格や個別の契約に依存する権利が含まれます。

まず、最も典型的な例として挙げられるのが「一身専属的な権利」です。これらの権利は被相続人の人格や生活に密接に結びついており、他人に譲り渡すことができません。具体的には、扶養請求権年金受給権、年金受給権がこれに該当します。扶養請求権は、被相続人が生存中に他者から扶養を受ける権利であり、これは相続人に引き継がれることはありません。また、年金も、被相続人の生前において個人に支給されるものですので、通常の年金受給権は相続の対象にならないとされています。さらに、委任契約のように、被相続人が他者との間で行っていた契約の中には、特にその人に依存しているものが多く、これも相続の対象外となります。

次に、雇用契約に基づく権利や会社での地位も相続の範囲には入りません。被相続人が持っていた雇用契約上の権利、例えば給与やボーナスなどは、その人個人に対して支払われるものであり、死亡後にこれらを相続人が受け取ることはできません。これにより、被相続人が雇用契約に基づく未払い給与や未払いボーナスがあったとしても、その時点での受給権は消滅します。

さらに、資格や免許に関連する権利も引き継げない権利の一つです。たとえば、弁護士や医師などの専門職に関する資格や、特定の業務許可証などは、個人の能力や適性に基づいて付与されるものであり、相続によって第三者に移転することはありません。これらの資格や免許は、被相続人が生前に取得したものであり、他の者に承継されることはできないため、相続の対象にはならないのです。

これらの例を通じてわかるように、相続は財産や義務を包括的に引き継ぐものと考えられがちですが、被相続人に個別に関連する権利に関しては、相続の対象外となるものが存在します。

引き継げない義務とは?

「引き継げない義務」とは、被相続人が生前に負っていた個人的な性質の強い義務で、相続の対象とならないものを指します。これらの義務は、被相続人自身の能力や人格に依存しているため、相続人がこれを引き継ぐことはできません。 まず代表的な例として挙げられるのが、一身専属的な義務です。たとえば、被相続人が委任契約の受任者として負っていた義務がこれに該当します。委任契約において、受任者は委任者から特定の業務を依頼され、その遂行に対して義務を負うことになりますが、この義務は個人の信頼や能力に基づくため、他人に引き継ぐことはできません。被相続人の死去により、このような契約上の個人的な義務は終了し、相続の対象とはなりません。また、資格や職務に伴う義務も相続されない義務の一例です。例えば、弁護士や医師といった特定の資格や職業に従事する者は、職務上の特別な責任や義務を負います。これらの資格に伴う業務や倫理的な義務は、その職業を持つ個人にしか適用されないため、相続によって他者に引き継がれることはありません。仮に被相続人がその職業に基づいて責任を負っていた場合でも、その責任自体が相続人に移ることはなく、被相続人の死亡と共に消滅します。

遺族年金や死亡退職金はどうなる?

遺族年金や退職金は被相続人の死亡に伴って発生する給付金であり、相続財産とは異なる形で遺族に支払われるものです。では、具体的にどのように取り扱われるのかを整理していきましょう。 

遺族年金について

遺族年金は被相続人が公的年金制度に加入していた場合に、その遺族が受け取れる年金給付です。遺族年金は被相続人の死亡によって遺族の生活を支援するために支給されるものであり、相続財産の一部とはみなされません。つまり、遺族年金は相続財産ではなく、遺族固有の権利として給付されるため、相続人全員で分け合うものではなく、特定の遺族(主に配偶者や子ども)が受給者となります。遺族年金には国民年金の遺族基礎年金、厚生年金の遺族厚生年金などがあり、受給資格や支給額は、被相続人が加入していた年金制度とその支給基準によって異なります。

死亡退職金

死亡退職金は被相続人が勤務していた企業から支給されることが多い一時金です。退職金は、企業の規定や契約内容に応じて、死亡退職金として遺族に支払われる場合があります。この死亡退職金も、遺族年金と同様に相続財産ではなく、企業が指定した受取人に支給される金銭です。企業によっては、生前に受取人を指定する仕組みがあり、その指定に基づいて支払われるため、相続財産として他の相続人と分割する必要はありません。

退職金が相続財産として扱われるケース

特に死亡退職金の受取人が指定されておらず、相続人全員に支払われる場合は、退職金が相続財産の一部と見なされることがあります。その場合は、相続人間で分割協議を行う必要があります。

非課税枠

死亡退職金には相続税の課税対象となる部分がありますが、一定の非課税枠(500万円×法定相続人の数)が設けられているため、この点も確認が必要です。



まとめると、遺族年金は相続財産ではなく、特定の遺族に支払われる固有の給付金であり、退職金は状況により相続財産かどうかが異なるため、受取人や企業の規定を確認することが重要です。どちらも相続の一部と誤解されがちですが、それぞれの仕組みを正確に理解し、遺族が受け取れる権利と金額について確認しておくことが大切です。

注意すべき特定のケース

相続できると信じ込んでいるものの、実際には相続できない場合が多々あり、これがトラブルの原因となることがあります。特に以下のようなケースでは、遺族が誤解しやすく、適切な知識を持たないと問題を引き起こしかねません。

遺言書で指示されていても無効な場合

被相続人が遺言書の中で、相続できない権利や義務についても相続人に引き継がせたいと指示している場合、その内容は法的に無効とされます。具体的には、年金受給権のような一身専属的な権利は、遺言書でどれだけ明確に指示されていても、法律上相続人に承継されることはできません。仮に遺言書に「私の年金を子どもに引き継がせたい」と書かれていても、この部分の遺言は効力を持ちません。これにより、遺族間で「遺言書通りにすべて従うべきだ」という主張が出ると、無効な指示に基づいてトラブルが生じる可能性(*)があります。遺言書の内容が法的に有効かどうかを事前に確認することが重要です。

(*)「亡くなった父は、『年金を引き継がせることができる』と勘違いして、『私に年金を、姉には自宅を、弟に現金を相続させる』と遺言書に書いた。年金の部分だけ無効になっては、私の相続分はゼロになってしまうから、遺言書全体を無効にすべき」という主張が起こりえます。

誤解されやすい、相続できない権利

扶養請求権委任契約に基づく権利も相続の対象外です。扶養請求権は、被相続人が他者に対して生活の支援を求める権利であり、被相続人が亡くなると同時に消滅します。これも、遺族が「被相続人が受けていた扶養を自分たちも引き継げる」と誤解するケースが見られますが、実際には引き継ぐことはできません。同様に、委任契約に基づく権利や義務も被相続人の個人的な関係に基づいているため、他の人に承継されることはありません。たとえば、弁護士や会計士に業務を依頼していた契約があったとしても、その契約自体は被相続人の死去によって終了し、相続人が自動的にその契約を引き継ぐことはないのです。 これらの誤解が原因で、相続の手続きや財産分割がこじれ、相続人間で争いが発生することがあります。そのため、相続できるものとできないものを事前に明確に理解し、遺言書の内容や契約関係についても法律に照らして確認しておくことが不可欠です。特に、専門家のサポートを受けることで、こうした誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。

勘違いしやすい、知らずに引き継がれてしまう債務

相続は財産だけでなく、被相続人の持つ債務も含まれるため、知らないうちに借金や未払金などの負債を相続してしまうことが少なくありません。

被相続人が生前に銀行から借り入れた住宅ローン自動車ローンは、相続によってそのまま引き継がれます。これらの債務があることを知らない場合でも、法定相続人は相続放棄をしない限り、その負債を負うことになります。また、クレジットカードの未払い残高なども同様に相続の対象となります。さらに、税金や未払の医療費、公共料金といった日常的な支出も、被相続人の死亡時点で未納となっている場合、これらの債務も相続人に引き継がれます。

特に注意すべきなのは、ある債務の連帯保証人になっているケースです。相続人が存在を知らずに負担を引き継ぐことになり、しばらくしてから、本来の債務者が返済できなくなり、債権者から返済を求められることもあります。こうした債務を引き継いでしまわないためには、相続開始後に早めに被相続人の財産と負債をしっかりと調査し、必要であれば相続放棄限定承認を検討することが重要です。

まとめ

相続できるものとできないものを明確に区別することは非常に難しく、相続人間でトラブルが発生することも少なくありません。これを避けるために、相続の専門家に相談することは非常に重要です。 専門家は、遺産分割協議や相続税の申告において、どの財産が相続対象となるのかを整理する手助けをしてくれます。また、遺言書の内容が法的に有効かどうか、債務がどのように扱われるかといった細かな点についても、不安を解消し、スムーズな手続きが進められます。専門家に相談することで、相続放棄や限定承認といった手続きが必要かどうかも判断でき、相続人が不利な状況に陥らないように防ぐことが可能です。 行政書士 井戸 規光生 事務所では相続診断士の資格を持つ行政書士が、ご依頼者様それぞれの事情に沿って、相続される財産、相続されない財産の判別を行います。また、登記が必要な際には司法書士を、相続税に関するお悩みには税理士を、また、万が一相続人間でのトラブルが発生した場合には提携の弁護士を紹介し、ご依頼者様の負担が少ない形で諸手続きを進めてまいります。初回相談は無料ですので、お電話、お問い合わせフォームなどから、是非お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

2024年に「行政書士 井戸 規光生 事務所」を設立しました。
建設業、遺言・相続サポート業務に特化した名古屋市南部の地域密着型事務所です。
高校時代はラグビー部に所属。地元名古屋のスポーツチームを応援しています。

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