受付時間:平日9時〜19時
知らないと損をする?よくある相続放棄の勘違い
相続放棄は、「亡くなった人の借金を引き継がないための手続き」という認識が一般的です。しかし、意外にも相続放棄に関しては多くの誤解が存在します。この誤解を抱えたまま手続きを進めると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。この記事では、相続放棄にまつわるよくある勘違いを取り上げ、その真相を詳しく解説します。正しい知識を持って、安心して相続手続きを進めましょう!
相続放棄とは?
相続放棄の基本的な仕組み
相続放棄とは、亡くなった人(被相続人)の財産や借金を一切引き継がない手続きのことです。この手続きは、本人か弁護士が家庭裁判所に申述書を提出することで正式に行われます。相続放棄をすることで、その人は法律上、最初から相続人ではなかったとみなされます。そのため、相続放棄を選択した人は、被相続人の財産や負債に対する責任から解放されます。
相続放棄には法律で定められた期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」(民法第915条1項)と定められています。この期間を過ぎてしまうと、原則として相続を受け入れた(単純承認した)ものとみなされるので注意が必要です。
「相続放棄」で免れるものとは?
相続放棄によって免れるのは、被相続人の債務や負担です。たとえば、多額の借金やローンの支払い義務、不動産の維持費や管理費といった経済的な責任を引き継ぐ必要がなくなります。ただし、相続放棄をした場合でも、被相続人の遺品や不動産について一定期間管理する義務が残ることがあります。また、財産だけでなく借金も放棄するため、被相続人の預貯金や家などの財産も一切受け取れません。この点を誤解して、相続放棄を「一部の財産だけを放棄できる」と考える人がいますが、相続放棄はすべての権利と義務を放棄するという法律上の強い意味を持ちます。
相続放棄で全ての相続手続きから解放される?
次の相続人に影響が及ぶ可能性がある
相続放棄を行うと、財産も借金も一切相続しなくなります。ただし、相続放棄をしたからといって「全ての相続問題が自分と無関係になる」と考えるのは誤解です。相続放棄をすると、次順位の相続人(兄弟姉妹やおじ・おばなど)が新たに相続人となることがあるため、結果的に親族間で別の負担や調整が必要になることがあります。特に、借金を放棄する目的で相続放棄をしても、次順位の相続人が同じ借金の負担を引き継ぐことになる可能性があるため、親族間のトラブルが発生することもあります。
例えば既に父親が亡くなっており、母が亡くなった時に、子ども2人が両方相続放棄をすると、相続権は母の兄弟姉妹(子どもからみた叔父叔母)に、兄弟が亡くなっている時はその子(子どもからみたいとこ)に移ります。相続権が移ったことを知らせないと、後々問題が発生します。これは逆の立場(知らないうちに、亡くなった兄弟、もしくは叔父叔母の債務を引き継がされる)も起こりえます。
不動産や家財道具の管理責任は残る
相続放棄をしても、被相続人の不動産や家財道具に関して一定の管理責任が残ることが法律で定められています。これは、民法第940条に基づくもので、「相続放棄をした者は、自己の財産に属しない相続財産を管理しなければならない」と規定されています。つまり、相続放棄をした人であっても、次の相続人が決まるまでの間、被相続人の財産が損壊したり他人に損害を与えたりしないよう管理義務を負うのです。相続放棄はすべての問題を終わらせる手続きではなく、残る義務についても十分に理解して進める必要があります。
相続放棄の期限は無制限?
相続放棄の期限は「3か月以内」
相続放棄の期限は、法律で「自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内」と定められています(民法第915条)。これは、相続するか放棄するかを慎重に判断するための「熟慮期間」として設定されています。この期間を過ぎてしまうと、原則として相続を受け入れた(単純承認した)とみなされるため注意が必要です。
「自己のために相続が開始したことを知った時から」とは?
「自己のために相続が開始したことを知った時」とは、通常、被相続人が死亡したことと、自分が相続人であることを認識した時点を指します。例えば、自分の親や、配偶者の死に立ち会った場合は、亡くなった日が「相続開始を知った時」になります。
ただし、特別な事情がある場合、この起算点がずれることもあります。例えば、被相続人の死亡を後から知った場合や、自分より先の順位の相続人が全員相続放棄をして、自分に相続権が回ってきた時などです。このような場合、相続放棄の期限は事実を知った時点から3か月以内と解釈されます。
期限を過ぎてしまった場合の対応策
期限を過ぎた後に相続放棄をしたい場合でも、全く手段がないわけではありません。
- 家庭裁判所への申し立て: 特段の事情があった場合、期限の延長を申し立てることができます。ただし、これが認められるのは非常に例外的な場合です。
- 相続人ではなかったことの主張: 自分が相続人でないことを証明できる場合(たとえば、被相続人が他に優先順位の高い相続人を指定していたなど)、家庭裁判所で主張することが可能です。
相続放棄はタイミングが重要な手続きです。期限を守りつつ、場合によっては専門家に相談することがスムーズな解決への近道です。
「自分の相続分なしとした」だけで「相続放棄」となる?
遺産を相続しないのと相続放棄は全く異なる
相続人同士の話し合いで「自分は遺産を相続しない」と合意することは、これは法律上の「相続放棄」とは全く異なるものです。相続放棄は、家庭裁判所に正式な申述書を提出し、認められることで効力を持つ法的手続きです。一方、話し合いでの相続分の放棄は、遺産分割協議の一部として行われるものであり、財産分与を受けない意思を表明するだけのものです。
遺産を相続しなくとも債務は相続する
遺産を相続しないことを選んだ場合でも、被相続人に借金などの債務があれば、それを相続人として引き継ぐことになります。これは、相続分を主張しないという意思表示では、法律上の相続人である地位を放棄したことにはならないからです。その結果、債権者は遺産を相続しなかった相続人に対しても、債務の弁済を請求する権利を持っています。例えば、被相続人に多額の借金があり、相続分を主張しなかったとしても、借金返済の義務を逃れることはできません。
相続放棄は撤回できる?
相続放棄は、一度家庭裁判所で手続きを終えた後は、原則として撤回することはできません。これは、相続放棄が相続人の地位を完全に失う法的な効果を持つためです。一方で、撤回が認められるのは、脅迫や詐欺によって相続放棄を余儀なくされた場合など、ごく一部の特別な事情がある場合に限られます。たとえ財産の分与に関して後悔や誤解があったとしても、それだけの理由で撤回することはできません。
3か月経ってないのに相続放棄できなくなった
相続放棄ができないもう一つのケースが、「単純承認」をしてしまった後です。単純承認とは、法律上、以下のような行動が該当します(民法第921条)。
- 被相続人の財産を一部でも処分した場合
- 3か月の熟慮期間を過ぎても相続放棄や限定承認をしなかった場合
「単純承認します」と宣言しなくても、自動的に単純承認になってしまう場合があることに要注意です。被相続人の預金口座からお金を引き出したり、不動産を売却したりした場合も、財産を受け入れたとみなされ、相続放棄をする権利を失います。単純承認は、法律的に強い効力を持つため、後から相続放棄を申し出ても認められません。相続放棄を考える際は、誤って単純承認に該当する行為を行わないよう注意が必要です。
被相続人が生きている内に相続放棄できる?
相続放棄は被相続人が亡くなってからのみ可能
相続放棄は、法律上、被相続人(亡くなった方)の相続が開始した後でなければ行うことができません。被相続人が生きている間には相続そのものが存在しないため、相続放棄の手続きも進められません。これは、相続放棄が「自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内」という熟慮期間のルールに基づいて行われるためです(民法第915条)。そのため、被相続人の生前に「相続放棄する」といった意思を表明したとしても、法的な効力を持つことはありません。
生前の単純承認も無効
同様に、生前に相続財産を受け取る意思を示す「単純承認」の表明も法律上効力を持ちません。単純承認とは、相続財産を受け入れる意思を示す行為ですが、それが効力を発揮するのは相続が開始した後の行動に限られます。たとえば、被相続人が存命中に「財産を全て相続します」と発言しても、それは何ら法的拘束力を持たず、実際に相続が開始された後に改めて意思を示す必要があります。
誤解がもたらすリスク
生前に「自分は相続放棄する」と親族に伝えて安心していても、いざ相続が発生した後に手続きを忘れると、相続を承認したとみなされるリスクがあります。これを防ぐためにも、被相続人が亡くなった後に速やかに手続きを行うことが重要です。
相続放棄や単純承認に関するルールを正しく理解し、誤解のない形で準備を進めることがトラブルを回避する鍵となります。
まとめ: 正しい知識で相続放棄を
相続放棄は、被相続人の借金や負債を引き継がずに済む有効な手段です。しかし、手続きには多くの注意点があり、誤解や不備があると後々トラブルに発展する可能性があります。特に、期限内に行わなければならない点や、放棄後も一定の管理責任が残ること、また生前には放棄ができないことなど、法律の正しい理解が必要です。 相続放棄でお悩みの方は、行政書士 井戸 規光生 事務所にご相談ください。相続放棄は、被相続人の負債を引き継がないための重要な手続きですが、期限や書類など注意すべき点が多く、専門的な知識が求められます。当事務所では、初回相談を無料で承っており、お客様の状況に合わせた的確なアドバイスとサポートを提供いたします。家庭裁判所での手続きの際も提携弁護士と連携してスムーズに手続きを進めてまいります。ぜひお気軽にお問い合わせください。お電話やメール、お問い合わせフォームからのご相談も可能です。