長寿高齢化社会における相続トラブルと後見制度

日本は長寿高齢化社会を迎え、相続に関する問題がますます複雑化しています。特に、認知症などにより判断能力が低下した親を支援するため、子どもが後見人として就任するケースが増えています。親子間の信頼関係を基盤にした有効なサポート方法である一方、相続の場面では思わぬトラブルが発生することもあります。本記事では、家族が後見人として関与する場合に起こり得る相続トラブルやその解決策を具体例とともに解説します。ぜひ最後までお読みください。

目次

後見制度の基礎知識

後見制度は、判断能力が不十分な高齢者や障害者を法的に支援する制度で、基本的に二つの種類があります。

・任意後見制度:判断能力がしっかりしている間に、将来に備えて信頼できる人物を後見人としてあらかじめ選んでおく制度です。後見契約を結ぶことで、将来本人が判断能力を失った際に後見人が法的代理人として活動します。 ・法定後見制度:既に判断能力が低下している人を対象とする制度で、家庭裁判所が後見人を選任します。法定後見は、判断能力の低下程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれます。

「後見」は、判断能力がほぼ失われた状態の人に対して支援を行う場合に適用されます。「保佐」は部分的な判断能力を持つ人に対して、重要な決定を支援します。「補助」は比較的軽度の支援を必要とする場合に使われ、特定の行為についてサポートします。

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これらの制度は、被後見人の財産保護や日常生活のサポートを目的としていますが、相続の場面では複雑な問題を引き起こすことがあります。

相続時に家族が後見人であることが引き起こす問題点

家族が後見人として相続に関わる場合、特に法定後見の場合には法的な規制が強く働きます。ここでは具体的な例をもとに、その問題点を見ていきましょう。

父親が亡くなり、長男が母親の後見人である場合

父親が亡くなり、母親と子ども3人が相続人である状況を考えます。長男が母親の法定後見人となっており、母親は長男と同居しています。父親の遺産は家(住宅と土地)のみで、家の資産価値はそれほど高くありません。子どもたちは皆、独立してそれぞれの住居を持っており、相続財産である家を実際に欲しいと思う者はいませんでした。そのため、家族の総意として長男が形式的に家を100%相続することにし、今後どうするかは長男に任せる方向で進めようと考えました。

しかし、ここで問題が発生します。長男が母親の後見人であるため、母親の利益を守る立場にあります。日本の法律では、後見人が被後見人(この場合は母親)との間で利益相反の関係にある場合、単独で遺産分割協議を行うことはできません。この場合、母親の財産を守るために、後見人の代わりに家庭裁判所が選任する「特別代理人」や、すでに後見監督人がいればその人物が遺産分割協議に参加することになります。

さらに、この「特別代理人」や「後見監督人」は、家族の意向を尊重するわけではありません。彼らの使命はあくまで被後見人である母親の法定相続分(このケースでは父親の遺産の50%)を守ることです。したがって、母親の同意があっても、長男が100%家を相続することはできない可能性が高くなります。

感情と法的義務の板挟み

家族が後見人になることで、家族間の信頼関係を基にしたサポートが可能になりますが、法的には後見人には厳格な義務が課せられます。後見人は被後見人の利益を最優先にしなければならず、家族間の感情や利害を調整することはできません。そのため、相続時に利益相反が発生すると、法的な手続きが必要となり、家族間の合意や信頼関係がかえって問題を複雑化させる場合があります。

遺言書での対策

こうした事態を避けるための最も効果的な方法は、被相続人が遺言書を残しておくことです。遺言書があれば、遺産分割協議を行わずに、被相続人の意向に基づいて相続を進めることができます。例えば、今回のケースで父親が生前に「自宅と土地を長男に相続させる」といった内容の遺言書を作成していれば、特別代理人を選任する必要もなく、円滑に相続を進めることができました。

遺言書には、以下のような要素を含めるとよいでしょう:

  • 具体的な相続の分配:財産ごとに誰が相続するかを明記する。
  • 相続人全員の理解を得ること:遺言書作成時に、家族全員と話し合いを行うことで、後のトラブルを防ぐ。
  • 遺言執行者の指定:信頼できる専門家(行政書士など)を遺言執行者として指定し、遺産分割の手続きをスムーズに進める。

これにより、後見制度が絡む複雑な相続でも、スムーズな相続手続きが可能となります。

家族が後見人になる場合のリスク管理

長寿高齢化社会では、親の判断能力低下に備える後見制度が重要な役割を果たします。しかし、相続の際には家族が後見人となることで利益相反や感情のもつれが生じ、問題が複雑化する可能性があります。最も有効な対策は、被相続人が生前に遺言書を準備し、相続トラブルを未然に防ぐことです。また、後見制度を利用する際は、事前に専門家と十分に相談し、適切な対策を講じることが大切です。 行政書士 井戸 規光生 事務所では相続診断士の資格を持つ行政書士が、ご依頼者様それぞれの事情に沿って、遺言書の作成サポートや、相続手続きの代行を行っております。相続発生時の相続人、相続財産の調査や、各種必要書類の取得、作成、金融機関とのやり取りなど、煩雑な手続きも代行いたします。また、登記が必要な際には司法書士を、相続税に関するお悩みには税理士を、また、万が一相続人間でのトラブルが発生した場合には提携の弁護士を紹介し、ご依頼者様の負担が少ない形で諸手続きを進めてまいります。初回相談は無料ですので、お電話、お問い合わせフォームなどから、是非お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

2024年に「行政書士 井戸 規光生 事務所」を設立しました。
建設業、遺言・相続サポート業務に特化した名古屋市南部の地域密着型事務所です。
高校時代はラグビー部に所属。地元名古屋のスポーツチームを応援しています。

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