受付時間:平日9時〜19時
生活保護と遺産相続の境界線――受け取る前に知っておきたい5つの注意点

遺産を相続することになった──その知らせが届いたとき、生活保護を受けている方にとっては、複雑な感情が押し寄せるかもしれません。「生活保護は打ち切られてしまうの?」「受け取ってもいいの?」そんな疑問を抱えるのは当然のことです。相続は誰にでも起こり得る身近な法律問題である一方、生活保護制度との関係は意外と複雑です。適切な対応をしなければ、後に困った事態を招く可能性もあります。この記事では、生活保護を受けている方が遺産を相続する際に注意すべきポイントを5つに絞って、分かりやすく解説します。自分にとって最善の選択ができるよう備えておきましょう。
生活保護受給者でも相続はできる
相続の権利は誰にでも
生活保護を受けているからといって、相続の権利が奪われることはありません。相続とは、民法に定められた法的権利であり、被相続人の死亡により、自動的に相続人に財産が引き継がれる制度です。生活保護を受給していても、相続人としての立場に変わりはなく、遺産を受け取ることは法律上、当然に認められています。
受け取るかどうかは慎重に
ただし、実際に遺産を受け取るかどうかは慎重に判断すべきです。なぜなら、遺産を相続することによって、生活保護の受給条件を満たさなくなる可能性があるからです。たとえば、現金や不動産を相続することで「資産がある」と見なされれば、保護の停止や廃止といった影響が生じる場合があります。相続はできる。しかし、どう対応するかはケースバイケース。制度の仕組みを正しく理解したうえで、自分にとって最善の選択を検討することが大切です。
注意点① 相続すると生活保護が打ち切られる可能性がある
相続で「資産あり」と判断されるリスク
生活保護は、本来自力で生活することが困難な人を支える制度です。そのため、相続によって財産を取得すると、行政から「資産を保有している」と判断され、生活保護の受給資格を失う可能性があります。相続財産の内容や金額によっては、保護が停止されるだけでなく、完全に廃止されることもあります。
現金や換金できる財産は特に注意
特に注意が必要なのは、現金や預貯金、有価証券といった、すぐに生活費として使える財産を相続した場合です。これらは、生活を維持するための資産として直ちに利用可能であると判断されやすく、受給要件から外れてしまう原因になります。生活保護を受けながら相続する場合には、その内容が制度に与える影響をしっかり理解し、事前に福祉事務所や専門家に相談することが重要です。
注意点② 少額でも影響が出るケースがある
少額だから大丈夫とは限らない
「相続した金額が少しだけなら、生活保護に影響はないのでは?」と思う方も多いかもしれません。たしかに、数千円や数万円といったごく少額であれば問題にならないケースもありますが、明確な「安全ライン」があるわけではありません。受け取った額や内容によっては、思いがけず受給に影響が出る可能性もあります。
基準額を超えると受給に変化が
たとえば、相続によって一時的に100万円以上の現金を取得した場合、それが「生活を維持できる資産」と見なされれば、生活保護は一時的に停止されたり、支給額が減額されたりすることがあります。金額の多少に関係なく、相続した資産の種類や利用可能性が判断基準となるため、少額であっても油断はできません。心配なときは、あらかじめ自治体の福祉事務所に報告し、指示を仰ぐことが安心につながります。
注意点③ 相続放棄で生活保護を維持できるのか?
相続放棄は可能だが注意が必要
相続放棄は、民法に基づき誰でも自由に選択できる手続きです。生活保護を維持したいという理由から相続放棄を検討することも、一見合理的な判断に思えるかもしれません。しかし、福祉事務所からは「本来取得できた資産を、意図的に放棄した」と受け取られるリスクがあります。
放棄が認められるケースとそうでないケース
たとえば、相続財産のほとんどが借金である場合や、明らかに生活を圧迫するような負債を避ける目的の放棄であれば、制度上も正当とされやすいです。一方で、明らかにプラスの財産があるにもかかわらず、生活保護を継続するためだけに放棄を選ぶと、後に不正受給と判断される可能性も否定できません。相続放棄を選ぶ前には、必ず事前に自治体や専門家に相談し、手続きの正当性を確認しておくことが重要です。相続放棄ができる期間は「相続開始を知った日から3ヵ月以内」と決まっているため、短期間で慎重に判断しなければなりません。
注意点④ 相続したら必ず自治体に報告を
未報告は重大なリスクに
相続が発生したにもかかわらず、それを生活保護の担当窓口に報告しなかった場合、「不正受給」と判断されるおそれがあります。これは、意図的な隠ぺいと見なされる可能性があり、後に保護費の返還請求や支給の打ち切りといった、重いペナルティに発展することもあります。
報告は「確定時点」で、できるだけ早く
相続が「確定」した段階、つまり遺産を受け取る意思を明確にした時点や、相続登記などの手続きを行った段階で、速やかに福祉事務所へ報告することが求められます。仮にまだ遺産分割が済んでいない段階であっても、相続発生の事実を伝えておくことで、後々のトラブルを避けることができます。
誤解や見落としを防ぐためにも、まずは福祉事務所へ相談し、正しい手続きを踏むことが大切です。
注意点⑤ 再度生活保護を申請できる可能性も
財産が尽きれば再申請は可能
相続によって一度生活保護が廃止された場合でも、その後に相続財産を使い切り、再び生活に困窮したときは、生活保護の再申請が可能です。生活保護制度は「最後のセーフティネット」として機能しているため、自立が困難になった時点で、改めて支援を受けることができます。
「意図的な浪費」と思われないように
ただし、相続財産を浪費したり、あらかじめ「使い切ればまた申請できる」といった意図で動いたと疑われると、再申請時の審査に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、短期間で財産を消費した場合などは、使途を厳しく問われることもあります。再申請を視野に入れる場合でも、誠実な生活と報告姿勢が求められます。事前に福祉事務所へ相談し、正当なプロセスを踏むことが、安心して支援を受ける第一歩となります。
まとめ
生活保護と相続は、思っている以上に密接に関わるテーマです。制度を正しく理解せずに対応すると、「知らなかった」では済まされない事態に発展することもあります。今回ご紹介した5つの注意点をあらかじめ知っておくことで、不安やトラブルを未然に防ぐことができるはずです。もし判断に迷うことがあれば、一人で抱え込まずに、早めに行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。行政書士井戸 規光生事務所では、生活保護と相続に関するご相談を承っています。初回相談は無料ですので、お電話052-602-9061またはEメールido.kimioアットマークofficeido.com、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。