相続でも遺言書でも要注意!『未登記建物』がもたらす落とし穴

相続準備として遺言書を作成する場合であっても、遺言書を遺さずに亡くなった後に相続手続きを進める場合であっても、まず大前提となるのが「財産の確認」「相続人の確認」です。ところが、この財産の確認を進めていく中で時折見つかるのが、「確かに故人(もしくは遺言者)の財産なのだが、登記がされていない建物」という存在です。いわゆる「未登記建物」と呼ばれるものです。この未登記建物が相続の場面で明らかになると、思わぬ手続き上の障害や、相続人間のトラブルを引き起こすことがあります。今回は、未登記建物があることで具体的にどのようなリスクが生じるのか、そしてそれをどのように解決していくべきかについて解説します。

目次

未登記建物とは何か?

登記されていない建物とは

未登記建物とは、その名のとおり、法務局に登記されていない建物を指します。通常、建物を新築した際には、1か月以内に表題登記を行うことが不動産登記法によって義務付けられていますが、何らかの理由でこの手続きを行わずに現在に至っている建物が該当します。

なぜ登記されていないままなのか

未登記のままになってしまう理由は様々ですが、よくあるのは古い住宅で、建築当時には登記の必要性が認識されていなかったケースです。また、建物の一部を増築した際に、その増築部分だけが登記されていないという事例も少なくありません。

課税されていても登記されていない矛盾

登記はされていなくても、建物が実際に存在していれば、市町村の固定資産台帳には登録され、固定資産税は課税されます。このように、市区町村では把握していても、法務局には記録がないという状態が、未登記建物の本質的な特徴です。

未登記建物があると何が問題になるのか?

相続手続き上のトラブル

未登記建物がある場合、最も大きな問題となるのが相続手続きです。通常、相続した不動産の名義変更を行う際には登記簿に記載された情報を基に手続きを進めますが、未登記の建物ではこの名義変更ができません。この場合、相続人が所有権を証明するために別の手続きを行う必要があり、手続きが長引く可能性があります。

表題登記が必要なケース

未登記建物の名義変更を行うためには、まず表題登記を申請しなければなりません。この登記手続きが完了していない限り、法務局ではその建物を管理できません。表題登記には土地家屋調査士による調査が必要で、手続きの進行が遅れるだけでなく、追加費用も発生するため、相続人にとっては予想外の負担になることがあります。

遺言書で記載漏れがあった場合の影響

また、遺言書に未登記建物を記載し忘れた場合、その建物は遺産分割協議の対象になってしまいます。遺言書に記載された財産については、原則として遺言書通りに相続されますが、未登記建物を記載しないことで、他の相続人との間でトラブルが生じ、遺産分割協議を再度行うことになる可能性もあります。

遺言書で未登記建物をどう扱うか

固定資産評価証明書に基づく記載方法

遺言書に未登記建物を記載する場合、最も重要なのは、固定資産評価証明書を基に記載することです。固定資産評価証明書には、未登記建物の所在地や構造、床面積などが記載されており、これを参考にすることで建物の特定が容易になります。公正証書遺言を作成する際には、証明書の内容を正確に記載することが求められます。

「家屋番号:未登記」とした上で所在地や構造を明記する方法

未登記建物の記載方法として、**「家屋番号:未登記」**と記載したうえで、その建物の所在地や構造、床面積を明記することが推奨されます。こうすることで、後に遺言書の執行者が建物を特定できるようになり、他の相続人との間で誤解を生じることを防げます。特に増築部分が未登記の場合、その部分も詳細に記載することが重要です。

包括記載の有効性と注意点

「全ての不動産を〇〇に相続させる」といった包括的な記載をすることでも未登記建物を遺産に含めることができます。この方法はシンプルですが、注意が必要です。未登記建物が含まれていることが明確でない場合、後のトラブルを避けるために、具体的な詳細(所在地や構造など)を付け加えることが重要です。包括的記載だけでは、遺言書の執行が困難になる場合があるため、具体的な情報を記載しておく方が安全です。


相続発生後に未登記建物が判明した場合の対応

表題登記から始める手続きの流れ

相続発生後に未登記建物の存在が判明した場合、まず必要となるのが表題登記の申請です。表題登記は、建物の所在地や構造、床面積などを法務局に届け出て建物の存在を正式に登録する手続きです。この登記が完了して初めて、次のステップである所有権保存登記が可能となり、相続人の名義に変更することができます。

土地家屋調査士への依頼と必要書類

表題登記を行うには、土地家屋調査士に依頼して現地調査と図面作成を行ってもらう必要があります。この際には、建物の建築時期がわかる資料や、相続関係を証明する戸籍、遺産分割協議書(または遺言書)などの書類が必要になります。特に建物が古く、建築確認申請書などが残っていない場合は、追加調査が必要になることもあります。

相続人全員の協力が必要なケース

未登記建物の登記手続きでは、全ての相続人の意思確認や署名・押印が必要となる場合があります。特に遺言書がないケースや、遺産分割協議を経て登記を行う場合には、全員の合意が前提となります。相続人間での連絡が取れない、または関係が悪化している場合には、手続き自体が大きく遅延するリスクもあるため注意が必要です。

トラブルを避けるために今できること

生前の表題登記は家族への思いやり

未登記建物の問題を将来に持ち越さないためには、生前に表題登記を済ませておくことが効果的です。建物の構造や面積を正確に登記しておくことで、相続時の名義変更がスムーズに進みます。特に築年数が古い住宅や、増改築を繰り返した建物は、早めの確認と対応が重要です。

専門家への早めの相談がトラブル防止につながる

相続や登記に関する手続きは専門的で複雑なため、司法書士・行政書士・土地家屋調査士などの専門家に早めに相談することが安心への近道です。法的な要件を満たした遺言書の作成や、登記の正確性を確保するためにも、プロのサポートを受けておくことで、将来の相続人間のトラブルを未然に防ぐことができます。

財産の棚卸しで気づく“抜け”の防止

定期的に自分の財産を棚卸しする習慣を持つことで、未登記建物や登記漏れの土地など、見落とされがちな財産の存在に気づくことができます。また、その情報を整理しておくことで、遺言書作成時の記載漏れも防げます。家族への負担を減らす意味でも、大切な備えといえるでしょう。

まとめ:未登記建物を放置しないことが円満相続への第一歩

相続の準備においては、見落としがちな未登記建物こそ、しっかりと対策しておくことが重要です。たとえ登記されていなくても、実際に存在する財産である以上、相続時には必ず手続きの対象となります。家族への想いを、トラブルや手続きの混乱に変えないためにも、生前の表題登記や正確な遺言書の作成は、大切な備えとなります。円満な相続を実現するために、今できる一歩を踏み出しておきましょう。行政書士井戸 規光生事務所ではご依頼者さまそれぞれの事情に寄り添って、遺言書作成サポート、相続手続きサポートを行っております。未登記の建物が判明した際でも、提携の司法書士、土地家屋調査士をご紹介し、ストレスのない形で手続きを進めてまいります。初回相談は30分無料でございます。お電話052-602-9061またはEメールido.kimioアットマークofficeido.com、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

2024年に「行政書士 井戸 規光生 事務所」を設立しました。
建設業、遺言・相続サポート業務に特化した名古屋市南部の地域密着型事務所です。
高校時代はラグビー部に所属。地元名古屋のスポーツチームを応援しています。

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